夏の登山といえば、つい軽装で出かけたくなるもの。気温が高くなる季節、半袖にハーフパンツというスタイルは一見快適に思えるかもしれません。しかし実際の登山では、紫外線や虫刺され、擦り傷など“肌を出すことのリスク”が意外と多いのも事実です。
私自身は基本的に長袖・長ズボンで登りますが、ときにはトレイルランニングで半袖&短パンの軽装を選ぶこともあります。つまり、絶対にダメとは言いません。ただし、登山の目的やルート、経験値によって最適な服装は変わる——それが実感です。
この記事では、「夏の登山にはどんな服装がベストなのか?」を安全性と快適性の両面から解説しつつ、スタイルによる選択の幅も考えてみたいと思います。
夏の登山、なぜ服装に気をつけるべきか

夏山は気温が高く、一見すると軽装でも問題ないように思われがちです。しかし、山という環境は都市部とは大きく異なり、「暑さ対策」だけでは不十分なこともあります。この章では、夏に山へ登る際に注意すべき服装のポイントを、安全面と気候面の両方から見ていきます。
気温だけでなく、紫外線・虫・怪我にも注意
気温の高い夏は、つい軽装で登りたくなります。半袖にハーフパンツは涼しくて動きやすく、一見すると快適な装いですが、実際の山では危険も潜んでいます。
まず、紫外線。標高が上がるごとに紫外線量は増え、長時間肌をさらすことで日焼けによるダメージや疲労が蓄積されやすくなります。また、山にはブヨやアブ、ダニといった虫も多く、刺されると強いかゆみや腫れが長引くこともあります。
さらに、登山道では枝や岩、転倒などによる擦り傷のリスクもあります。軽装ではこうした外傷を防げず、安全面から見ると不利になることは否定できません。
高山ほど「夏=涼しい」とは限らない理由
意外と見落とされがちなのが「寒さ」のリスクです。夏とはいえ、標高が1,500mを超える山では気温が10℃以下になることもあり、天候が急変すれば体感温度は一気に下がります。汗をかいた状態で風に吹かれると、体温が奪われて低体温症の原因になることも。
つまり、夏の登山は「暑さ対策」だけでなく「寒さへの備え」も同時に必要なのです。
基本的な夏の登山服装とは

登山において「服装は装備の一部」と言われるほど重要な要素です。特に夏は暑さ対策に意識が向きがちですが、快適さだけでなく安全性も両立させる必要があります。ここでは、一般的な登山スタイルにおける夏の基本装備と、レイヤリングの考え方について整理してみましょう。
基本は長袖・長ズボン+速乾素材
多くの登山者に推奨されているのは、薄手の長袖シャツと長ズボンです。一見暑そうに思えますが、通気性と速乾性に優れた素材を選べば、汗を素早く蒸発させて体温を調整しやすくなります。加えて、紫外線や虫、枝による擦り傷などから肌を守る役割も果たします。
特に最近は、UVカット加工が施された登山用ウェアも多く、市街地用とは異なる機能性があります。長袖=暑いという固定観念を捨て、山用に最適化された服装を選ぶのが賢明です。
レイヤリングの考え方は夏でも有効
夏でも山では気温が大きく変化します。そのため、「重ね着で調整する」=レイヤリングの発想は夏にも有効です。
例えば、ベースレイヤーに吸汗速乾性のTシャツ、ミドルレイヤーに薄手の長袖シャツやアームカバー、さらに防風・防寒用にウインドシェルやレインウェアをザックに入れておくと安心です。急な天候変化や風の強い稜線など、いざというときに即座に対応できます。
軽量化を意識しつつも、「持たないリスク」より「持っていく安心」を優先することが、安全で快適な登山につながります。
半袖&ハーフパンツは本当に危険?

夏の登山でよく見かけるのが、半袖シャツにハーフパンツという軽装スタイル。確かに涼しくて動きやすく、一部では定番とも言えますが、安全面ではどうなのでしょうか。この章では、肌を露出することのリスクと、それでもその服装を選ぶ場面について、筆者の実体験も交えてご紹介します。
肌の露出によるリスク(擦り傷・虫刺され・日焼け)
半袖や短パンといった露出の多い服装は、夏場の登山では特に注意が必要です。先にも触れたように、紫外線による日焼けや、山中の虫(ブヨ・アブ・マダニなど)による刺咬被害は無視できません。
また、登山道には岩場や藪、枝が飛び出した場所も多く、足や腕を擦りむくケースもあります。転倒した際にも、肌を直接地面にぶつけてしまうリスクが高まるため、軽装は快適さと引き換えに「守り」が非常に弱くなるという側面があります。
自分も半袖短パンで走ることがある理由
とはいえ、状況次第では軽装にも合理性があります。たとえば私自身、トレイルランニングやスピードハイクでは半袖・ハーフパンツを選ぶこともあります。理由は、汗を効率よく逃がせること、動きやすさを重視できること、そして走行中は虫がまとわりつきにくいことです。
また、行動時間が短く、整備された登山道を往復する場合は、リスクがある程度コントロールできるとも感じています。ただし、その場合でも防風ジャケットやアームカバーなど、必要に応じて装備を追加できるようにはしています。
つまり、軽装=絶対にNGということではなく、「どういう登山をするか」によって適した服装が変わるというのが、私の実感です。
スタイルによって異なる「正解」もある

登山者の数だけ服装の選択肢がある——と言っても過言ではありません。安全性を重視する人もいれば、行動の軽快さを最優先にする人もいます。この章では、UL(ウルトラライト)ハイカーやトレイルランナーといった軽装志向の登山スタイルに触れながら、服装の「正解」は一つではないという視点をご紹介します。
ULハイカーやトレラン愛好者の服装事情
ウルトラライトハイキング(UL)やトレイルランニングに取り組む人々の多くは、最低限の装備で最大の行動力を得ることを目的としています。そのため、半袖・短パンといった軽装はごく自然な選択肢となります。
軽量化によって移動スピードが上がり、結果として虫に刺されるリスクも下がり、天候の変化にも素早く対応できるというメリットがあります。加えて、行動時間が短いため、紫外線や擦り傷の影響を受ける時間も少ないという判断も含まれています。
動きやすさ vs 安全性のバランス感覚
大切なのは、「どちらが正しいか」ではなく、自分の登山スタイルとリスク許容度に合わせた服装を選ぶことです。
安全性を最優先にするなら長袖・長ズボンを選び、行動効率を高めたいなら軽装+補助装備という選択肢もアリ。どちらを選ぶにせよ、状況に応じて装備を柔軟に調整する姿勢が求められます。
まとめ|涼しさと安全、どちらも大切にした服装選びを

夏の登山は気温が高く、つい軽装に走りたくなるものです。しかし、自然の中では思わぬトラブルや気象変化が起こり得るため、安易な服装選びは危険を招くこともあります。最後に、これまでの内容を踏まえ、夏山での服装選びにおける大切なポイントを改めて整理しておきましょう。
快適さとリスク回避の両立が理想
夏の登山で意識すべきなのは、「涼しさ」だけを求めるのではなく、「快適さと安全性のバランス」を取ることです。
薄手の長袖・長ズボンは暑く感じるかもしれませんが、紫外線・虫・怪我から肌を守りつつ、通気性のある素材を選べば、十分に快適な行動が可能です。加えて、防風・防寒対策の装備をバックパックに忍ばせておくことも忘れてはなりません。
「自分にとっての正解」を見つけよう
筆者自身も、状況に応じて半袖・短パンを選ぶことがあります。それはトレランなど特定のスタイルにおいて合理的だと感じるからです。ただし、それはあくまで「その条件下での正解」であって、万人にとっての正解ではありません。
登山の目的、ルート、天候、経験値——それらを踏まえて、自分にとっての最適な服装を選ぶ。それが、夏山を安全に、そして気持ちよく楽しむための最も大切な姿勢だと私は考えます。