2025年5月、英国の元特殊部隊員4人が、エベレスト登頂の常識を覆す快挙を成し遂げました。彼らはロンドン出発からわずか5日で世界最高峰の頂に立ち、従来の数週間に及ぶ順化プロセスを一切省略。その鍵となったのが、医療用の希少ガス「ゼノン」を用いた革新的な酸素順化法でした。
この前例のない“時短登頂”は、登山界に新たな可能性を示す一方で、安全性や倫理面への懸念も呼び起こしています。彼らの挑戦は、エベレスト登山の未来を変える一歩となるのでしょうか?それとも、伝統と安全を脅かす“禁断の手法”なのでしょうか?
本記事では、彼らの登頂の全貌と、その波紋を詳しく解説します。
5日登頂の全容とチーム概要
2025年5月21日、英国の元特殊部隊員4人が、ロンドン出発からわずか5日でエベレストの頂に立つという前例のない記録を達成しました。このチームは「Mission Everest 7 Days」と名付けられたプロジェクトの一環として、従来の数週間に及ぶ順化プロセスを省略し、革新的な方法で登頂に成功しました。
メンバーは、英国政府の退役軍人担当大臣であるアリスター・カーンズ氏を含む、元SASおよびSBSの隊員で構成されており、全員が豊富な軍歴と高所登山の経験を持っています。彼らは、出発前に低酸素テントでのトレーニングや、ドイツの医療機関でのゼノンガス吸入療法を受けるなど、徹底した準備を行いました。
この挑戦は、登山界における新たな可能性を示す一方で、安全性や倫理面での議論も呼び起こしています。彼らの成功は、高所登山の常識を覆すものであり、今後の登山スタイルに大きな影響を与える可能性があります。
ゼノンガス酸素順化のしくみ

今回の登頂成功のカギとなったのが「ゼノンガス酸素順化」という最新の手法です。ゼノンガスは無色・無臭の希少なガスで、医療現場では麻酔などに使われますが、吸入することで低酸素状態をシミュレーションし、体に“高所にいる”と錯覚させる効果があるとされています。
ゼノンガスを数分間吸入すると、体内で低酸素誘導因子(HIF-1α)が活性化され、これが赤血球の生産を促すエリスロポエチン(EPO)の分泌を増やします。赤血球が増えることで、血液が運べる酸素の量が増加し、筋肉や脳への酸素供給が改善されるため、持久力の向上や高所順応の負担軽減が期待されます。
今回のチームは、登山前にゼノン吸入セッションを数回行い、従来なら2〜3週間かかる順化プロセスを短縮。ベースキャンプ到着後すぐにアタックを開始できる体を作り上げました。ただし、ゼノンガス順化の効果や安全性はまだ科学的に十分証明されているわけではなく、今後の研究と議論が必要です。
賛否と今後の高所登山への影響

今回の「5日でエベレスト登頂」は、登山界に大きな波紋を広げています。短期間での順化が可能になれば、これまで数週間を要していた高所遠征の常識が大きく変わる可能性がある一方で、医療的リスクや登山倫理を懸念する声も強まっています。
「安全性の検証が不十分なままゼノンガスを使うのは危険だ」「伝統的な登山スタイルを壊しかねない」という批判がある一方で、「遠征費用の削減や環境負荷の軽減につながる」と評価する意見もあります。今後は、技術革新による恩恵と、自然を相手にする登山の本質をどうバランスさせるかが大きな課題になりそうです。
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